ニホンリスの鳴き声を調べたい・・
山の中にいると、ちょっと学術的なことを調べようと思っても、図書館などありませんので、どうしてもネット頼りになってしまいます。幸い、論文がネットにアップしてあることも多いので、それらを読ませていただくのですが(よい時代になりました)、ニホンリスの鳴き声の種類についてはどうしても情報が得られず、この「リスの生態学」にたどり着きました。

最近、積ん読(笑)が多くなっていた私ですが、この本だけは、大変興味深い内容盛りだくさんで、数時間で一気読みしてしまいました。残念ながら、ニホンリスの鳴き声の種類に関する情報は得られませんでしたが・・・リスがどのように鳴き声(音声信号)を使い分けているのか、クリハラリス(=タイワンリス)や熱帯の初めて聞くような名前のリスの研究成果がまとめられていて、大変参考になりました。
リスの鳴き声の種類ですが、アフリカ熱帯雨林の樹上性リスの鳴き声の種類として、過去の研究の引用をされていらっしゃいます。(Emmons L. H. (1978) Sound communication among Africa rainforest squirrels.Zeitschrift für Tierpsychology 47:1-49) それによるとリスは以下の6タイプの音声を持っているそうです。
- 接触を求める音声(同種個体への社会的状況で用いられる)
- 防衛音声(同種個体あるいは捕食者など異種に対して近距離で用いられる)
- 警戒音声(捕食者への警戒時に用いられるが、その強さによってAとALの2タイプに分けられる)
- 苦痛の音声(同種または異種の強いストレスに対して用いられる)
- 乳児の呼び声(巣から落ちたときなど長距離信号)
- 乳児のカチカチ音(主に母親への短距離信号)
しかし、この本ではさらに著者の研究によって、
- 捕食者ごとに音声を使い分けていること(空からの捕食者か地上の捕食者か)
- 交尾前のメスがオスを誘う音声は、種類ごとに全然違う
- 交尾前後の音声の使い分け方(ここが結構キモ!)
などが明らかにされています。(これらは本当に大変な、地道な作業だと思います・・)面白いですね!リスの世界の多様性がうかがい知れます。
※なお、詳しいことはネタバレになってしまうのでここでは書きません(笑)
ニホンリスについても、この複雑な音声信号の使い分けについて、研究が進むことを期待して待ちたいと思います・・あー、ニホンリスについて知りたい知りたい(笑)
リスの生態研究盛りだくさん
ところで・・この本の面白さは、著者のこれまでの研究自叙伝みたいになっているところにもあります。特にリスの生態をどのようなきっかけで、どのように調査していったのか・・・このあたりが個人的にはとても好きです。
だいたい野生のリスを観察したことがある人ならわかると思いますが、まず、そもそもの個体識別がとても難しい・・・。ネット上でニホンリスに名前つけてる人が時々いますけれど・・ホントかなあとか思ったりして(笑)私が鈍感でわからないだけかもしれませんが(笑)(なので、うちに来るリスはすべて「昼寝リス」と呼んでます(爆))しかし、研究ならそうも言っていられないと思いますし、これ、どうやって見分けるのでしょうか・・。
また生態研究となれば、生息範囲の調査も必要だと思いますが・・あのすばしっこくて警戒心強くて全然近づけないリスをどうやって調査するんでしょうかね・・・
これらはリス好きなら、気になるところだと思います。上記についての試行錯誤や苦労についても詳しく書かれていて、「へーなるほど〜〜すごいなあ〜〜」の連続です。

そのほかにも、りすの交尾騒動(ってなに?)だとか、貯食についての詳細な分析(貯食したクルミはどうなってしまうの?)とか、リスなのにクルミを割れないリスの話とか・・リス好きにはたまらない、面白いお話が盛りだくさんとなっていました。
リスのかわいらしさにはまってしまった人は必読書です。ぜひどうぞ!
(※この中で出てくる個体識別の方法は、学術的な研究でなければ絶対にできません・・・もどかしいですけど、研究されているかたにお任せするしかないですね・・・)
■著者について 田村典子:森林総合研究所多摩森林科学園主任研究員
■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)田村/典子 1960年東京都に生まれる。1982年東京都立大学理学部生物学科卒業。1989年東京都立大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、独立行政法人森林総合研究所多摩森林科学園主任研究員、理学博士。専門は動物生態学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)